昨今多くの業界で導入が進むドローンは、業務効率化やこれまでできなかった新たな業務アプローチへの活用など、多くのメリットを生み出していると言われています。
これは今回取り上げる農業も同様で、ドローンによる業務改善事例が多く生まれています。
農業ではこれまでラジコン飛行機などによる農薬散布などはされていましたが、ドローンはそれだけではなく現代の農業における多くの問題に対処する利用法が開発されています。
この記事では、農業関係者でドローン導入を検討されている方に、ドローン導入のメリットや導入事例などについて詳しく解説いたします。
農業へのドローン導入の目的やメリット
農業へのドローン導入方法について解説する前に、そもそも農業へドローン導入が広がりつつある理由についてご存じですか?
農業では最近ドローンだけではなく、DXやIoT導入による新たな取組が進められつつあり、ドローンはその1つの手段といえます。
各産業においてDXやIoT導入が進められる理由は、業務効率化や新たな嬉しさの提供などを検討するためといわれており、農業においても同様であるといえます。
ただ農業でIT技術導入が加速している理由の一つとして、農業従事者の減少や、高齢化などの深刻な問題が背景にあるからといえるでしょう。
背景には農業人口の減少
農林水産省の調べによれば、国内の農家戸数は昭和25年をピークに減少を続けており、2012年~2017年の5年間の間でも37.3万戸も減少したとされています。
また、農業従事者の高齢化も加速しており、後継者不足も深刻な問題といわれております。
後継者減少は今後の農業従事者の減少の加速を意味するだけでなく、これまで培ったノウハウ伝承にも影響を及ぼすこととなり、将来日本のおいしい野菜が手に入らなくなることにつながる可能性もあるなど、日本経済に及ぼす影響も大きいことが予測されます。
また海外の安価な農作物輸入も問題といえる
また、もう一つの背景として、海外から輸入される安価な農作物にもあるといえます。
大量生産で安価な海外の農作物の輸入は国内農業従事者にとって非常に脅威であり、国の輸入政策によっては今後さらに安価な輸入農産物が増加する可能性もありえます。
またこれが農業従事者減少の原因の1つにもなっています。
国内従事者はこれら輸入農作物に対抗すべく、高品質で安価な農産物生産を目指す必要があります。
大きく2つの導入目的
農業のドローン導入は、このような農業の抱える深刻な問題に対応する為、導入が加速しているといえます。
その導入目的は大きく2つ、「業務効率化」と「ノウハウ蓄積・伝承」となります。
農業従事者の減少に対し、これらの目的がどのように関連するのでしょうか?詳しく解説しましょう。
業務効率化
ドローン導入の1つ目の目的は「業務効率化」です。
先にも説明した通り、農業従事者の人口は減少の一途をたどっており、少ない労働人口でこれまでどおりの収穫量を確保するためにはそれを補う仕掛けが必要となります。
ドローンは不足する労働人口を補う、いわば農業マシーンとして人の業務をサポートします。
また、少人数でこれまで通りの収穫量を上げることは人件費の削減につなげられ、これにより良い野菜を安価に提供することにもつなげられます。
ノウハウ蓄積・伝承
ドローン導入のもう一つの理由、それはノウハウ蓄積・伝承にあります。
ドローンはDXやIoTなどの1つである、とお話ししました。DX、IoTは生産現場などにおける技術伝承などにも一役買っております。
またデータを元にした情報収集により、より分かりやすい情報として技術やノウハウを保管できる点も特徴です。
ドローンは農業DXの一つとして、より分かりやすい技術伝承にも利用されているのです。
農業におけるドローン活用事例
ここまで農業へのドローン導入の背景やその目的などについて解説してきました。
それでは具体的にどのように利用されているか?解説していきましょう。
ここでは、先にもお話ししたドローン導入の目的である「業務効率化」、「ノウハウ蓄積・伝承」の2つについてそれぞれ事例をご紹介いたします。
業務効率化
まずは導入における1つ目の目的である「業務効率化」に関する事例についてのご紹介です。
業務効率化を目指す事例は主に業務ロボットとしての役割としてドローンが用いられています。
これにより少人数による農業が可能となり、これによるコスト削減や効率アップを望めます。
ここでは、3つの事例についてご紹介いたします。
農業散布、肥料散布
農薬や肥料散布は通常人の手で実施するのが一般的であり、大規模農業においても農機具を使い有人で実施する非常に負担の大きい業務の一つでした。
この業務をドローンで対応することで工数削減、および業務負担軽減を目指しています。
実はこれまでもラジコン飛行機やヘリコプターといった機材で散布する手法は多くの現場で取り入れられてきました。
こういった点をご存じの方には業務効率化、といわれても疑問視されるかもしれません。
しかし、ラジコン飛行機やヘリコプターと比べドローン導入には優位性があります。それは導入コストと散布の正確性にあります。
農業用ラジコン飛行機やヘリコプターは、非常に高価な機材であり導入にはコスト面のハードルが高かったといえます。
これに対しドローンは低価格での導入が可能となります。
またラジコン飛行機やヘリコプターは飛行しながら農薬や肥料を「ばらまく」イメージであり、本来散布しなくてもよいエリアにも散布してしまうため、効率が悪い点がネックでした。これに対しドローンはGPSなどを利用しピンポイントでの配布が可能であり、農薬、肥料の効率的な散布が可能で、コスト抑制にもつなげられます。
種まき
種まきは通常手で行う作業であり、こちらも重労働の1つです。この種まきをドローンで実施することが可能です。
種まきは1つ目に説明した農薬や肥料以上にまく位置の正確性が求められます。野菜栽培の場合、ウネと呼ばれる土手をつくり、ここに等間隔で穴をあけそこに種をまきます。よって普通の機械では正確にまくことが困難なのですが、ドローンであればホバリングと低飛行技術を使い正確に種まきできるわけです。
重労働である種まきをドローンで対応することで大幅な労力削減と効率化につなげられるのです。
農作物運搬
農作業でもう一つ大変な作業、それは収穫です。特に収穫した後搬送するのは非常に体力を必要とします。平地であればよいのですが、ミカンやお茶など山の上で栽培する作物などは、車両などで移動することが困難なため、人手で運ばねばならず、重労働になってしまいます。
こういった場所で活躍するのがドローンです。ドローンにカゴを付けるなどして空輸できますのでどんなに大変な場所でも運搬可能です。
ノウハウ蓄積・伝承
ドローン活用法の2つ目、ノウハウ蓄積・伝承に関する導入事例です。ドローンを使い上空から空撮するなどしてデータを収集、分析することで業務効率を上げる方法です。またデータによるノウハウ蓄積は技術伝承も可能とします。ベテラン農家の育成状況をデータ化することでより分かりやすい技術の伝承が可能となるわけです。
ここでは2つの事例についてご紹介します。
空撮によるセンシング
センシングとは自然現象などを熱、色、音などの情報として測定し数値化する技術です。ドローンを使った農業センシングとは、作物を栽培しているエリアを空撮、画像分析することで農作物の生育状況や病害虫などによる影響を可視化する技術です。
このような情報と、先にご紹介したドローンにより配布した農薬・肥料散布や気温などのデータを組み合わせることにより生育の良し悪しの分析が出来、今後の品質向上につなげられるというわけです。
これは人の手で短時間に行うのは困難であり、ドローン故にこのような分析が可能となるわけです。
鳥獣被害対策
農家の皆さんにとって鳥やイノシシのような獣に農作物を襲われるのは深刻な課題といえます。しかしながらこういった獣の生態を調査し適切に駆除するのは非常に骨の折れる作業でした。
しかしドローンの広まりでその状況は大きく変わりました。ドローンの空撮により鳥獣の生息分布を把握、分析することでより効果的に対策することが可能となりました。
また、ドローンはヤブの中や崖など人が入り込めない場所への調査も可能であり、短期間で広範囲の調査が可能となった点も大きなメリットといえるでしょう。
農業用ドローン導入費用は?
農業の革命児と呼べるドローンが、業務効率化やノウハウ蓄積・伝承に大きく寄与してくれることはご理解いただけたのではないでしょうか?
しかし気になるのはその価格、いったいどのぐらいの費用が必要なのでしょうか?
ここではドローン購入費だけではなく、保険や維持費などドローン導入に必要な費用について解説します。
機体購入費用
単なるドローンであれば十数万円程度から購入可能ですが、農業専用機となるとそれなりのお値段が必要となります。
農業用ドローンの購入費ですが、おおむね100万円~300万円程度といわれており、機能などによっても大きく異なります。
例えばドローン専門メーカーであるDJIの農薬散布用ドローン「AGRAS MG-1」は180万円前後から、
同じく農薬散布用ドローンであるエンルートの「AC1500」は250万円前後となっています。
自動車を購入できるほどの費用が掛かる為決して安くない投資ですが、業務効率化を考えればある意味安価ともいえるのではないでしょうか?
任意保険
ドローンは空中を移動する装置であるため、墜落や衝突などで他人に危害を与えてしまう、ドローンを壊してしまうなどのアクシデントが考えられます。よってあらかじめ保険に加入しておくことをおすすめします。
任意保険には2種類あります。
前者が任意保険であれば、後者は車両保険といったところでしょうか。
保険費用は数万円程度からとなりますが保証内容によって異なります。
またドローン保険はDJIのような機体を提供するメーカーだけでなく、最近では一般の生命保険会社などでも提供されていますから、複数社で比較してみるとよいでしょう。
維持・メンテナンス費
自動車同様、ドローンは移動する機器であり、安全に利用することを考えれば定期的なメンテナンスは必須といえます。
また、農水協認定機体の場合、年1回の定期点検が義務付けられていますので、こちらの対象機器の場合定期点検は必須となります。
費用は、1回1万円程度と比較的安価ですので、安全に利用することを考えれば定期的に実施するようにしましょう。
知識・技術習得に必要な費用
ドローン操縦について免許は必要ありませんが、利用するには多くの法規を理解する必要があります。
また農業など業務利用する場合、事故を起こさぬよう一通りの基本動作は身に着けておくべきでしょう。
網羅的な知識と技術力を身に着ける場合、ドローンスクールに通うことが一番の方法です。
受講料は10万円~30万円と比較的高額ではありますが、補助金や支援金制度などもありますので、うまく利用することでもう少し安価に抑えることも可能です。
まとめ:農業関係者の皆様、ドローン導入により業務効率化を検討しませんか?
いかがだったでしょうか?
農業へのドローン導入は農業の業務負担を減らすだけでなく、業務効率化やそれによるコスト削減などにもつながることから効果の高い技術といえるでしょう。
導入費用は少し高めとはなりますが、将来的な工数・後継者不足、高品質で低価格な作物生産などを考慮すれば無駄な投資にはならないはずです。
皆さんもこれを機に、ドローン導入を検討されてはいかがでしょうか?